OSSのライセンスについて調べていると、「特許非係争」という言葉を目にすることがあります。
難しそうに見えますが、基本的な考え方はそれほど複雑ではありません。簡単にいうと、次のような仕組みです。
OSSの利用者が、そのOSSに関して特許侵害訴訟を起こした場合、OSSの開発者などから与えられていた特許ライセンスが終了することがある。
さらに分かりやすく言うと、「このOSSに関する特許ライセンスを受けているのに、そのOSSを特許で攻撃しないでください」というルールです。
この記事では、特許非係争について、できるだけ分かりやすく解説します。
まずは「特許許諾」を理解しよう
特許非係争を理解するためには、最初に「特許許諾」について知っておく必要があります。
OSSは、ソースコードが公開されており、ライセンスの条件に従えば、利用、改変、再配布などができます。
ただし、ソースコードを利用する権利と、特許を利用する権利は別です。
あるOSSは機能を実現するために、OSSの開発者やコントリビューターが保有する特許技術が使われていることがあります。そこで、一部のOSSライセンスには、次のような内容の特許許諾が含まれています。
このOSSをライセンス条件に従って利用する人には、このOSSを利用するために私たちが保有する特許の使用も認めます。
これが、特許許諾(Patent License)です。
つまり、OSSの利用者は、単にソースコードを使わせてもらっているだけではありません。ライセンスによっては、そのOSSを利用するために必要な一定範囲の特許についても、使用を認めてもらっています。
特許非係争とは
特許非係争とは、OSSの利用者が、そのOSSに関して特許侵害訴訟を起こした場合、そのOSSライセンスによって与えられていた特許ライセンスを終了させる仕組みです。
例えば、次のような状況を考えてみましょう。
あるOSSの開発者が、そのOSSに関係する「特許A」と「特許B」を持っているとします。一方、そのOSSを製品に組み込んで利用している企業があり、その企業は「特許C」を持っているとします。
関係を整理すると、次のようになります。
- OSSの開発者は、特許Aと特許Bを持っている
- OSS利用企業は、特許Cを持っている
- OSS利用企業は、そのOSSを利用するために必要な範囲で、「特許A」と「特許B」を利用する許可を受けている
- OSS利用企業は、そのOSSを製品に組み込み、販売している
ところが、ある日、OSS利用企業が次のように主張したとします。
このOSSは、当社が保有する「特許C」を侵害している!
そして、OSSの開発者や利用者に対して、特許侵害訴訟を起こしました。このとき、OSSライセンスに特許非係争条項が含まれていると、OSS利用企業が受けていた「特許A」や「特許B」の使用許可が終了することがあります。
これが「特許非係争」です。
自分は相手の特許を使わせてもらいながら、相手を自分の特許で攻撃する。このような行為を認めてしまうと、OSSの開発者や利用者は安心して活動できません。
そこで、「こちらの特許を使わせてもらっているのに、こちらを特許で攻撃しないでください」という仕組みが設けられています。
特許非係争条項を持つ代表的なOSSライセンスの一つが、Apache License 2.0です。
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OSSライセンスの文脈では、「特許非係争」のことを「特許報復条項」や「Patent Retaliation」と呼ぶこともあります。この記事では、分かりやすさを重視して「特許非係争」という言葉を使用しています。
特許ライセンスが終了すると何が困るのか
OSS利用企業は、OSS側から受けていた特許ライセンスが終了すると、そのOSSを利用した製品やサービスに影響が出る可能性があります。
例えば、終了した特許ライセンスが製品の製造や販売に必要だった場合、企業は次のような対応を求められることがあります。
- 特許権者から別途ライセンスを取得する
- 特許技術を使わないように設計を変更する
- OSSを別のソフトウェアに置き換える
- 製品やサービスの提供方法を見直す
対応できなければ、製品の販売やサービスの継続が難しくなる可能性もあります。ただし、特許ライセンスが終了したからといって、必ずすぐに販売停止になるわけではありません。
なぜ特許非係争が必要なのか
特許非係争の主な目的は、OSSの開発者や利用者が安心して活動できる環境を作ることです。
OSSは、多くの人や企業が同じ技術を利用し、改良し、共有することで発展していきます。
しかし、OSSを利用するたびに、「いつか他の利用者から特許侵害で訴えられるかもしれない」という不安があると、企業や開発者は安心してOSSを採用できません。利用者が増えにくくなり、開発への参加も減ってしまいます。
そこで、特許非係争条項によって、OSSに関する特許訴訟を起こすことに一定のリスクを持たせています。
特許非係争条項には、主に次のような効果が期待されています。
- OSS開発者を特許侵害訴訟から守る
- OSS利用者同士の特許紛争を抑制する
- 利用者が安心してOSSを採用できるようにする
- OSSの普及や共同開発を促進する
つまり、特許非係争は、単に利用者を罰するためのルールではありません。OSSの開発や利用を継続しやすくするための、防御的な仕組みです。
まとめ
OSSの特許非係争は次のような仕組みです。
OSSの利用者が、そのOSSに関して特許侵害訴訟を起こした場合、OSSの開発者などから与えられていた特許ライセンスが終了することがある。
この仕組みは、利用者の特許を放棄させるものではありません。相手を特許で攻撃した場合に、自分がOSS側から受けていた特許上の恩恵を失う可能性がある、というものです。簡単にいえば、「このOSSに関する特許ライセンスを受けているのに、そのOSSを特許で攻撃しないでください」というルールです。
OSSコミュニティにとって、特許非係争は、開発者や利用者が安心してOSSを利用するための防御的な仕組みです。一方、OSSを製品やサービスに利用する企業にとっては、特許を行使する前に必ず確認しておくべき重要なライセンス条件といえます。