データベースやシステム開発に携わっていると「物理削除」と「論理削除」という言葉をよく耳にします。どちらも「データを削除する」という点では共通していますが、仕組みや使いどころは大きく異なります。
この記事では「物理削除」と「論理削除」について、以下の内容を図を用いてわかりやすく解説します。
- 「物理削除」と「論理削除」の違い
- 物理削除とは?
- 論理削除とは?
- 「物理削除」と「論理削除」の比較表
- 「物理削除」と「論理削除」の使い分け
「物理削除」と「論理削除」の違い

「データ削除」と一口に言っても、データベースやシステム開発では大きく分けて「物理削除」と「論理削除」の2種類があります。以下に違いを示します。
- 物理削除
- データそのものを完全に削除してしまう方法です。
- 物理削除は「ハードデリート(Hard Delete)」「完全削除」「実削除」とも呼ばれています。
- 論理削除
- データを直接削除せず、「削除済み(
is_deleted
)」などのフラグを立てることで、あたかも削除されたかのように扱う方法です。 - 論理削除は「ソフトデリート(Soft Delete)」「フラグ削除」「擬似削除」とも呼ばれています。
- データを直接削除せず、「削除済み(
ではこれから、それぞれの特徴やどう使い分ければよいのかを詳しく説明します。
物理削除とは?
物理削除とは、データベース内のデータそのものを完全に削除してしまう方法です。一度削除すると基本的に元に戻せません。
物理削除の例
- データベースのユーザー情報を削除する
DELETE FROM users WHERE id = 1;
- ファイルをPCのゴミ箱からも削除する操作
物理削除には以下のような特徴があります。
- データは完全に消える
- データベースから削除された行や、ファイルシステムから削除されたファイルは復元できません。
- 例えば「ユーザーが退会したら情報を一切残さない」といったケースでは安心ですが、削除後に「やっぱり戻したい」となっても対応できないのがデメリットです。
- ストレージ容量を節約できる
- データそのものを消すため、ディスクやデータベースの空き容量が増えます。
- 大量のログや不要データを定期的に物理削除することで、システムのパフォーマンス維持にもつながります。
- 復元はほぼ不可能
- 削除した時点で元データは失われ、通常の手段では取り戻せません。
- 専門的なデータ復旧サービスを利用すれば一部復元できる可能性はありますが、時間やコストが非常に高くつきます。
- そのため、重要データは削除前に必ずバックアップを取るのが基本です。
開発での注意点
- バックアップを取っておくことが必須
- 一度消すと復元できないため、必ず事前にバックアップを用意してから削除するのが鉄則です。
DELETE
の条件を慎重に指定するWHERE
句を付け忘れると、テーブル内のデータがすべて消えてしまう危険があります。
- セキュリティ上の利点
- 個人情報を完全に削除できるので、情報漏洩リスクを減らせます。
論理削除とは?
論理削除とはデータベース内のデータを直接削除せず、「削除済み」などのステータスを示すフラグを立てることで、あたかも削除されたかのように扱う方法です。実際にはデータは消えませんが、アプリ側では「削除済み」と扱います。一度削除してもフラグを戻せば復元できます。
論理削除の例
- データベースのレコードに削除フラグを立てる
UPDATE users SET is_deleted = 1 WHERE id = 1;
- メールアプリで「削除」してもゴミ箱に移動するだけ(完全削除ではない)
論理削除には以下のような特徴があります。
- データは残り続けるため容量を使う
- 削除フラグを立てるだけなので、データ自体はデータベースやファイルに残ります。
- 削除履歴を追跡可能
- 削除済みデータも残るため、「いつ誰が削除したか」を追跡できます。
- 金融システムや監査ログが必要なサービスでは、論理削除が必須となるケースが多いです。
- データを後から復元できる
- 削除フラグを解除するだけで簡単に復元できます。
- 「間違えて削除した!」といった場合でも即座にリカバリーできるのが大きなメリットです。
開発での注意点
- 検索条件に注意
- 論理削除を導入すると、SQLやクエリに必ず「削除済みを除外する条件」を入れる必要があります。
SELECT * FROM users WHERE is_deleted = 0;
- 論理削除を導入すると、SQLやクエリに必ず「削除済みを除外する条件」を入れる必要があります。
- データ量が増える
- 削除しても実際には残るため、長期的に見るとデータベースが肥大化します。
- 放置するとパフォーマンスが落ちる原因になるため、アーカイブ設計や定期的な物理削除が必要です。
- 個人情報保護のリスク
- データが残り続けるため、法律や規制(例:GDPR)によっては論理削除だけでは不十分です。
- 個人情報は「一定期間後に物理削除」と組み合わせる設計が求められる場合もあります。
「物理削除」と「論理削除」の比較表
「物理削除」と「論理削除」の比較表を以下に示します。
物理削除 | 論理削除 | |
データの状態 | データが完全に消える。DBやファイルシステムからも削除され、後から確認することはできない。 | データ自体は残るが「削除済み」として扱われる。ア |
容量削減 | データが消えるためストレージ容量を節約できる。大量のログや不要ファイルの削除に向く。 | データが残り続けるので容量は減らない。放置するとDB肥大化やパフォーマンス低下の原因になる。 |
復元 | 不可。削除した時点で通常の方法では戻せない。バックアップからのリストアが唯一の手段。 | 可能。削除フラグを戻せばすぐ復元できる。ユーザーが「やっぱり復活させたい」と言った場合に対応しやすい。 |
セキュリティ | 情報が完全に消えるため、漏洩リスクが低い。個人情報や機密情報を扱う場合に適している。 | データは残っているため、権限管理や暗号化を適切にしないと情報漏洩リスクがある。 |
実装の手間 | シンプル。DELETE 文やファイル削除で完結する。 | やや複雑。削除フラグの管理や、検索時に「削除済みを除外」する条件を入れる必要がある。 |
パフォーマンス | 古いデータを削除することでDBサイズを抑え、検索や処理の速度が維持しやすい。 | データが蓄積し続けるため、長期的には検索速度や処理効率が落ちる可能性がある。 |
監査・履歴 | 履歴が残らないため、誰がいつ削除したか追跡できない。監査に向かない。 | データが残るので「いつ削除されたか」を追跡可能。金融・医療・業務システムなど監査ログが必要なケースに必須。 |
「物理削除」と「論理削除」の使い分け
削除方法を選ぶときの基準は「そのデータを本当に消して良いのか?」と「将来そのデータを参照・復元する可能性があるか?」です。以下にに「物理削除」と「論理削除」の使い分け方法を示しています。
物理削除が向いているケース
- キャッシュファイルや一時データの削除
- 一時的に生成されるログやキャッシュは残しておく意味がないため、物理削除で問題ありません。定期的に削除することでディスク容量の無駄を防げます。
- 個人情報保護のため、不要になったデータを完全に消す必要がある場合
- GDPRや個人情報保護法などの規制に対応する場合は、ユーザーからの削除依頼に応じてデータを完全消去する必要があります。物理削除はセキュリティリスクを最小化できます。
- ストレージ容量をシビアに節約したい場合
- スマートフォンアプリやIoTデバイスのように、保存容量が限られているシステムでは物理削除が適しています。古いデータを残すメリットよりも、容量確保が優先されます。
論理削除が向いているケース
- ユーザーが退会しても過去の注文履歴は残す必要があるECサイト
- 購入履歴や請求情報は会計上必要になるため、退会してもデータ自体は残す必要があります。この場合、ユーザー情報には「削除フラグ」を立てて利用停止にするのが一般的です。
- 履歴を監査ログとして保持する必要がある金融システム
- 金融・医療・公共機関のシステムでは「誰が、いつ、どの操作をしたか」を追跡することが重要です。論理削除なら削除済みデータも残せるため、監査に耐えられます。
- 「削除したけどやっぱり戻したい」といった要望に対応したいサービス
- SNSやメールアプリなど、ユーザーが誤操作で削除してしまう可能性があるサービスでは論理削除が便利です。フラグを戻すだけで復元でき、ユーザー満足度の向上につながります。
本記事のまとめ
この記事では「物理削除」と「論理削除」について、以下の内容を説明しました。
- 物理削除
- データそのものを完全に消してしまう方法で、セキュリティや容量の面で有利ですが、一度削除すると復元ができない。
- 論理削除
- データを残しつつ「削除済み」と扱う方法で、履歴の保持や復元が可能ですが、データ量が増え続ける点には注意が必要。
どちらを選ぶかは、システムの性質や利用目的によって変わります。例えば、キャッシュや一時データは物理削除、注文履歴や監査ログは論理削除といった使い分けが一般的です。
お読み頂きありがとうございました。