ソフトウェア開発のテスト手法の中でも、柔軟で効果的にバグを見つけられる方法として知られているのが「探索的テスト(Exploratory Testing)」です。
でも実際、
- 探索的テストって、普通のテストと何が違うの?
- モンキーテストとどう違うの?
- どんな手順で進めればいいの?
と疑問に感じる方も多いはずです。
この記事では、探索的テストの意味・やり方・メリット/デメリット・モンキーテストとの違いをわかりやすく解説します。
探索的テストとは?
探索的テストは、事前にテストケースを作らず、テスターの知識・経験・直感を活かしながら、システムの理解・探索・改善を同時に進めるテスト手法です。
テスト中に得られた気づきをもとに、「次はどこを試せば良いか?」「どんな入力をすると問題が起きそうか?」とその場で判断しながら進めていきます。そのため、
- システムの理解
- バグの探索
- テスト内容の改善
を同時に進められるのが大きな特徴です。このアプローチにより、従来のテスト手法では気づきにくい不具合も発見しやすくなります。
探索的テストの特徴
「探索的テスト」は「従来のテスト手法(事前にテストケースを作成して進めるテスト)」と異なる特徴がいくつかあります。これからその特徴について説明します。
テストケースを事前に作らない
探索的テストでは、事前に細かいテストケースを作らず、テストを進めながら内容を柔軟に変えるのが特徴です。
そのため、仕様変更が多いプロジェクトでも対応しやすく、「まず触ってみて挙動を理解したい」ときに効果を発揮します。
テスターの知識・経験・直感を活かす
探索的テストでは、テスターが持つ
- 過去のバグ知識
- 似た機能での経験
- 直感・仮説
といった要素をフルに活かしながら進めていきます。そのため、経験が豊富なテスターほど、潜在的なバグを見つけやすいという特徴があります。
学習とテストが同時に進む
探索的テストでは、実際に操作しながら、
- 新しい仕様を理解する
- 挙動のクセを知る
- 「次に試すべき操作」を考える
といった学習と探索を同時に進めていきます。そのため、仕様書だけでは気づけない挙動や違和感を発見しやすいのも、大きな強みです。
柔軟で創造的なアプローチ
探索的テストでは、
- 違う経路で画面遷移してみる
- 文字数をあえて極端に増やして入力する
- 本来は行わないような操作(異常操作)を試す
など、通常のテストケースには書かれにくい操作も積極的に試します。こうした柔軟なアプローチにより、想定外のバグやUXの問題も見つけやすくなります。
探索的テストの種類
探索的テストには、いくつかのスタイル(進め方)が存在します。「とにかく自由に触る」わけではなく、目的に応じてこれらの手法を組み合わせることで、より効率よくバグを発見できます。
テストチャーターを用いる探索的テスト
テストチャーター(Test Charter)と呼ばれる「今回のテストの目的・範囲・狙い」 を決め、それに沿って探索するテストです。
テストチャーターの例
- 商品購入フローをユーザー視点で確認する
- 商品購入フローをユーザー視点で確認する
- 設定画面のレイアウト崩れを重点的に探す
このようなテストチャーターがあることで、探索の方向性がぶれないため、テストが散漫にならず、「どこに集中すべきか」が明確になります。
セッションベースドテスト(SBT)
探索を30〜120分程度の「セッション」単位に区切り、その時間内で「探索 → 振り返り」を行うスタイルです。
セッションベースドテストの流れ
- あらかじめ時間を決める(例:60分)
- 時間内は探索に集中する
- 終了後に見つかったバグや気づきを整理する
短いスプリントのように集中して行うため、効率が良く、記録も残しやすいのが特徴です。
ツアーベーステスト
「旅行のツアーになぞらえて探索する」ユニークな方法です。観点ごとに「ツアー」を設定し、狙いを変えて探索します。
ツアーの例
- エラーツアー:エラーが起きそうな箇所だけ回る
- レイアウトツアー:UI崩れしそうな画面を重点的に巡る
- 新人ツアー:初回ユーザーの動きを再現する
テーマを決めて探索することで、抜け漏れを減らしながら広い範囲をチェックしやすくなります。
ペア探索的テスト
2人1組で行うスタイルです。1人が「操作担当」、もう1人が「観察・記録担当」という役割分担で探索します。
「操作担当」が見落としがちな点を、「観察・記録担当」が拾えるため、
- 見落としが減る
- 気づきをその場で共有できる
- 記録がしっかり残る
といったメリットがあり、品質の高い探索がしやすくなります。
探索的テストのやり方
探索的テストは以下の5ステップで進めると効率的です。
テストの目的を決める(テストチャーターを作成)
まずは「今回の探索で何を確認したいか」を一言で決めます。ここで作る簡単なメモが、先ほど紹介したテストチャーターです。
テストチャーターの例
- 商品購入フローをユーザー視点で確認する
- 商品購入フローをユーザー視点で確認する
- 設定画面のレイアウト崩れを重点的に探す
セッション時間を決める
次に、「このテストチャーターで何分間探索するか」を決めます。一般的には30〜120分程度のセッション時間を設定します。
セッション中は探索に集中します。
実際にソフトウェアを操作して探索する
テストチャーターとセッション時間が決まったら、実際にアプリを触りながら探索します。ここでは「ユーザーがやりそうなこと+ちょっと意地悪な使い方」を試すのがポイントです。
試す例
- 入力欄に異常に長いテキスト・絵文字・特殊文字を入れる
- ボタンを高速連打してみる
- 画面遷移を、想定とは違う経路から行ってみる
- 複数タブや別端末から同時操作してみる
事前に決めたテストケースに縛られず、気になったところはその場でどんどん試していきます。
気づきや不具合を記録する
探索中に見つけたことは、完璧な形式でなくてよいので、軽くメモしておきます。
メモしておくと良いこと
- 発生した画面(どの画面か)
- どんな操作で起きたか(ざっくりでOK)
- 再現できそうかどうか(毎回か/たまにか)
- スクリーンショットやログの有無
探索的テストの目的は、「怪しい挙動のタネ」を見つけることです。精密な再現手順は後で詰めればOK です。
結果を共有して振り返る
セッション後、開発チームやテスター同士で情報共有します。
共有内容
- 発見されたバグ一覧
- 「使いにくい」と感じたポイント
- 追加で試したほうが良さそうなパターン
- 既存のテストケースに追加すべき観点
探索で得た知見は、「仕様改善・UI改善」や「テストケース作成の材料」としてとても役立ちます
探索的テストのメリットとデメリット
探索テストのメリットとデメリットを以下にまとめます。
メリット
- 想定外のバグを発見しやすい
- ユーザーが実際に行う「不規則な操作」を再現できるため、仕様書には書いていないようなバグを見つけやすいのが強みです。
- コストを抑えやすい
- テストケースを事前に細かく作らないため、設計コストを削減できます。
- 仕様変更に強い(アジャイル向き)
- アジャイル開発や高速リリースでは、仕様が頻繁に変わります。探索的テストはテストケース更新が不要なので変化に強く、短いスプリントでも十分に機能します。
- UX(使いやすさ)に気づきやすい
- 実際に触りながら進めるため、「ボタンが押しづらい」「迷いやすい導線」「表示が遅い」といった「仕様書ではわかりにくい問題」に気づけます。
- 短時間で品質の全体感を掴める
- 「まず全体を触ってみたい」「どこに問題がありそうか粗く把握したい」といった場面で、探索的テストはとても効果的です。
デメリット
- テスターのスキルに依存する
- 経験者ほど多くの問題に気づけますが、初心者だと見落としが増える可能性があります。属人化しやすい点は注意が必要です。
- 記録が不十分だと再現が困難
- 探索しながらのテストは、メモを取らないと「何をした時に起きたバグか」が曖昧になります。ログやスクリーンショットを残す工夫が欠かせません。
- 網羅性が低くなりやすい
- チェックリストやテストケースがない分、「重要なパターンの漏れ」が発生することがあります。そのため、探索的テストだけで完結するのではなく、機能テストや回帰テストと併用するのが理想です。
探索的テストとモンキーテストの違い
探索的テストはモンキーテストと混同されますが、目的も進め方も違います。
一言でいうと、
- 探索的テスト
- テスターが考えながら戦略的にバグを探すテスト
- モンキーテスト
- あえて深い計画を立てず、ランダム操作で思わぬ不具合が出ないかを見るテスト
です。各テストの違いを表形式で以下にまとめます。
| 探索的テスト | モンキーテスト | |
| 目的 | テスターの知識・仮説を使って効率よくバグを見つける | ランダムな操作で思わぬバグが出ないかを見る |
| 操作 | テスターが考えながら操作する | ランダムに操作する |
| 計画性 | あり(チャーターや目的を決める) | テスト観点はあまり決めず、操作もランダム寄り |
| 実施者 | QA、開発者、経験者 | 誰でも可 |
| 有用性 | 高い(学習・改善・テスト設計に繋がる) | 低い(最終チェック程度) |
| 再現性 | 比較的残せる | 再現性は低い |
本記事のまとめ
この記事では「探索的テスト(Exploratory Testing)」について説明しました。
探索的テストは、事前に細かいテストケースを作らず、テスターの知識・経験・直感を活かして柔軟に進めるテスト手法です。
実際に触りながら気づきを得て、その場で「次に試すべき操作」を考えていくため、
- 仕様書には載っていない不具合を発見しやすい
- UXの違和感にも気づける
- 仕様変更が多いアジャイル開発と相性が良い
といった大きなメリットがあります。一方で、テスターのスキルに依存したり、記録が不十分だと再現が難しいなどの注意点もあるため、機能テストや回帰テストと組み合わせて使うのが効果的です。
お読みいただきありがとうございました。