インターネットで契約書をやりとりしたり、ソフトウェアをダウンロードしたり、メールで重要な情報を送ることが当たり前になった前になった現代において、ふと、こんな不安を感じたことはありませんか?
- 「このファイル、誰かが途中で書き換えていないだろうか?」
- 「本当にこの人から届いたデータなのかな?」
こうした「改ざん」や「なりすまし」の不安を解消するために使われているのが、デジタル署名(Digital Signature)です。
この記事では『デジタル署名』について、以下の内容を図を用いてわかりやすく解説します。
- デジタル署名とは?
- デジタル署名の仕組み
- デジタル署名のメリットとデメリット
- デジタル署名と公開鍵暗号方式の違い
- デジタル署名と電子署名の違い
デジタル署名とは?
デジタル署名は、電子的なデータに対して、
- 元のメッセージに改ざんされていないこと
- 送信者が正当であること(なりすまし防止)
を保証するための技術です。
たとえば、重要な契約書、ソフトウェアの配布、公式なメールなど、「この情報は本物だ」と信頼できることが求められるシーンで広く使われています。
紙の書類における「サイン」や「印鑑」のような役割を果たしますが、デジタル署名はなりすましや改ざんの検出が可能な点で、紙よりも強力なセキュリティ機能を持っています。
デジタル署名の仕組み

上に示しているのは、デジタル署名の仕組みを図解で表したものです。デジタル署名の流れは以下のようになっています。
送信者がすること
- 送るメッセージ(電子文書)を準備する
- メッセージ(電子文書)に対してハッシュ関数を使って「メッセージダイジェスト(ハッシュ値)」を作る
- メッセージダイジェストを「送信者の秘密鍵」で暗号化する→ これがデジタル署名になる
- 以下の3つを受信者に送信する
- 元のメッセージ(電子文書)
- 暗号化されたメッセージダイジェスト(=デジタル署名)
- 電子証明書(公開鍵の持ち主が本人であることを証明するもの)
受信者がすること
- 受け取ったメッセージ(電子文書)に対して送信者と同じハッシュ関数を使って「メッセージダイジェスト(ハッシュ値)」を作る
- デジタル署名を「送信者の公開鍵」で復号して「メッセージダイジェスト(ハッシュ値)」を作る
- 2つのハッシュ値を比較する
- 一致していれば、「元のメッセージに改ざんされていないこと」と「送信者が正当であること」が分かる。
メッセージ全体を暗号化するのではなく、まずはハッシュ関数で「要約データ(メッセージダイジェスト)」を作り、それを送信者の秘密鍵で暗号化することで、デジタル署名が作られています。
ハッシュ値が一致しない場合は?
2つのハッシュ値を比較しなかった場合、「メッセージが改ざんされた」または「検証に使った公開鍵が正しくない」可能性があります。
- メッセージが改ざんされた場合
- メッセージの中身(たとえば文字が1文字でも)改ざんされていれば、ハッシュ関数で作られる「メッセージダイジェスト(ハッシュ値)」は、送信時と全く違う値になります。なので、ハッシュ値が一致しなくなります。
- 公開鍵が間違っている場合
- たとえば攻撃者が「偽の公開鍵」や「偽の電子証明書」を使わせていた場合、復号した「メッセージダイジェスト(ハッシュ値)」は、送信時と全く違う値になります。なので、ハッシュ値が一致しなくなります。
電子証明書も一緒に送る理由は?
デジタル署名では、署名の検証に「送信者の公開鍵」を使います。「公開鍵」はインターネット上で誰でも使えるものですが、「本当にその公開鍵が送信者本人のものなの?」という疑問が出てきますよね。そこで使われるのが「電子証明書」です。
電子証明書は、信頼できる第三者(CA:認証局)が「この公開鍵は確かに○○さんのものです」と証明してくれるデータです。これにより、受信者は「公開鍵が送信者本人のものかどうか」を安心して確認できる仕組みになっています。
デジタル署名のメリットとデメリット
デジタル署名の主なメリットとデメリットを以下に示します。
メリット
- 改ざんの検出ができる
- メッセージが改ざんされた場合、ハッシュ値が一致しなくなるため。
- 送信者の真正性を確認できる(なりすまし防止)
- 秘密鍵で署名できるのは送信者本人だけであり、他人が勝手に署名できない。「偽の公開鍵」や「偽の電子証明書」を使っていた場合には、ハッシュ値が一致しなくなるため。
- 否認防止(Non-repudiation)
- 一度署名したことを後から「やってない」と否定することが難しくなるため、契約や取引の証拠として強力です。
- ペーパーレス・業務効率化にもつながる
- 書類に印刷・捺印・郵送といった手間が不要になり、コスト削減やスピードアップにも貢献できる。
デメリット
- 秘密鍵の管理が重要
- 秘密鍵が盗まれたら、なりすまし署名ができてしまうため、鍵の厳重な保護が必要です。
- 電子証明書の有効期限・失効の管理が必要
- 電子証明書には期限があり、更新や失効の管理を怠ると、信頼できない署名として扱われるリスクがあります。
デジタル署名と公開鍵暗号方式の違い
デジタル署名は公開鍵暗号方式の技術を応用することで、「元のメッセージに改ざんされていないこと」と「送信者が正当であること」を確認できるようにしたものです。「デジタル署名」と「公開鍵暗号方式」の違いを以下に示します。
項目 | デジタル署名 | 公開鍵暗号方式(暗号化) |
---|---|---|
主な目的 | 改ざん防止・本人証明 | 秘密のメッセージを送る |
暗号化に使う鍵 | 送信者の秘密鍵 | 受信者の公開鍵 |
復号に使う鍵 | 送信者の公開鍵 | 受信者の秘密鍵 |
送る相手 | 署名者以外の全員 | 特定の受信者 |
公開鍵暗号方式は「他人に見られないように」メッセージを暗号化するものです。
デジタル署名と電子署名の違い
「デジタル署名」と「電子署名」は、どちらも電子的なサインを意味しますが、意味や仕組みに違いがあります。「デジタル署名」と「電子署名」の違いを以下に示します。
項目 | デジタル署名 | 電子署名 |
---|---|---|
意味 | 暗号技術による署名 | 電子的なサイン全般 |
技術 | 公開鍵暗号方式を利用 | パスワード、画像、手書きサインなども含む広い概念 |
法的効力 | 電子署名法により、一定の条件を満たせば法的効力あり | 条件を満たせば法的に有効になることもある |
主な例 | PDFファイルの電子署名、ソフトウェアの署名 | タブレットでの手書きサイン、クラウド契約サービス |
簡単に言うと、電子署名は「電子的にサインしたもの」すべてを指す広い言葉であり、デジタル署名は、その中でも暗号技術を使って本人確認や改ざん防止ができる仕組みです。
本記事のまとめ
この記事では『デジタル署名(Digital Signature)』について、以下の内容を説明しました。
- デジタル署名とは
- 電子的なデータに対して、「改ざんされていない」「送信者が本人である」ことを保証する技術
- 公開鍵暗号方式との違い
- デジタル署名:秘密鍵で署名 → 公開鍵で検証
- 暗号化通信:公開鍵で暗号化 → 秘密鍵で復号
- 電子署名との違い
- デジタル署名:暗号技術による署名
- 電子署名:手書きサインや画像など含む広い意味
お読み頂きありがとうございました。